父と母は、ともにある食品会社の研究員で、新しい食品の開発に必要な原料を探すため、
先週から北海道へ出張に行っていた。
しかし、それは本当は三日間で終わるもので、今ごろはとっくに家に帰っているはずなのだが、
なぜか今日になってもまだ連絡すらきていない。
いなくなって五日ほどが経ってから、さすがの私達も少し不安な気持ちがよぎったが、
こんなことは以前にも何度かあったし、まああの研究熱心な二人のことだ、
どうせまたすごい掘り出し物でもみつかったか、
何かの発見をしたかで、長々と場所を離れられずにいるのだろう。
そう気楽に、私達は考えていた。
「ちとせまちっていや、あのちとせ町のことだよなあ?」
夕貴は言った。
あのあと三十分がたって、とりあえず私達は例の送られてきたフィルムを現像しようと、
駅の近くにある写真屋へと向かって歩いていた。
ちとせ町とは、私達の住む十川町のすぐ隣にある町で、
私の学校のクラスメイトも何人かそこに住んでいる。
聞かれてぱっと思い付くのはそこしかない。
「たぶん。空港じゃないことは確かよね。」
私は言った。
「そりゃそうだろ。」
すかさずつっこまれた。
「…ねえ、どうしてお父さん、こんな変なことしたんだと思う?」
「知らね。まず本当に親父が書いたのかどうかも疑わしいしな。
第一今は北海道にいるはずだろ?なんでわざわざそんなとこから
鍵やらフィルムやらを送ってこなきゃいけねんだよ。」
言いながら夕貴はその鍵を手で弄んでいた。複雑そうな形の鍵だ。
私は言った。
「うん、それに…なんかいやな予感がする………気がする。」
「意味わかんねえよ。しかもお前普段は予感とか気にするタイプじゃねえだろ。」
夕貴は言った。
「ん―………ま、そうね。」
私は笑った。
確かにまったくあてにならない予感などは気にしない方がいいだろう。
今は自分ができることをしなければ。
「お早い立ち直りで。おい、写真屋だぞ。」
夕貴は言い、その中へと入っていった。
午後六時半、うだるような暑さの中、ようやく太陽が傾こうとしているときのことだった。