「な…なに…これ……。」
そこには、男の人の顔と思われるものが、かなり大きく写っていた。
男の人の顔。
そうに違いないとは思うのだが、周りがあまりに暗すぎて見えにくいのと、
何よりその信じられない容貌に、私は初め、何がなんだかわからなかった。
頬の部分が腐ったように削げ落ち、骨が所々に見えている。
口は獣のように歯をむきだし、目だけがやたらと飛び出していて爛々と光っている。
そしてその目の中には、なんだか人間の感情というものがまったく感じられなかったのだ。
「おい、理亜、どうしたんだよ?俺にも見せろよ!」
写真を一目見た途端に顔を青ざめてそのまま立ち尽くしてしまった私に、
夕貴が心配そうに言い、無理矢理私の手からそれを取り上げようとした。
しかし、そのはずみで私は持っていた写真を全て落としてしまい、
そのほかの写真が床にばらまかれてしまった。
私は我にかえって床に落ちたものを見ると、
大半のものが最初見た写真と同じような人を撮ったものだということがわかった。
どれもこれもが人間とは形容しがたく、みんな一様に狂気じみた目をしていた。
だが、その中に二枚だけ、まったく違うものが写っているのに気がついた。
拾い上げて見てみると、一枚目は、何十台ものコンピュータが並んでいる中に、
大規模な捜査パネルのようなものがある研究室のような部屋が、
もう一枚のほうは、たぶん旅館だと思われる、大きな屋敷が写っていた。
「な…なんだよ、これ人間か?…まるでゾンビじゃねえか。」
写真を手に取って見るなり夕貴は言った。
必死に平静を保とうとしているが、声がかすかに震えている。
私はあることに気がついて、急に不安になって言った。
「…ねえ、もしかして、お父さんがこれを送ってきたってことは、まさか二人ともこの場所にいるんじゃ…?」
「お、おいまさか…。だとしたらすぐに行って連れ戻さないとヤバいんじゃねえのか。
でもこの場所がどこにあるのかわから…な………」
夕貴はいきなり押し黙って持っている写真を凝視した。
どんどん手が震えてきている。
「…夕貴?どうしたの…?」
私は聞いた。
「………………………慎吾…?」
「え?」
「こいつ…知ってる奴だ……ちとせ町に住んでる。…俺のクラスメイトだ。」